恋のメカニズム。

常重直也
2025.12.17

家のローンや生命保険の種類、AGAに不妊治療、離婚、そして裁判…。

先日お呼ばれした大学時代の友人の結婚式でのことです。少し前までどうでもいい話題でガハガハ笑っていたぼくたちも、豪奢な料理を囲みながら交わす会話はすっかりとおじさんのそれに。

「俺らも歳とったなぁ」なんて言い合いながら食べた前菜のトマトのバヴァロア。なんだか苦く感じたのはここだけの話です。

大学を卒業して早12年。共通の目的のもと集まり、共通の話題で盛り上がっていたおバカな若者も、いまでは相違点だらけなわけです。

まあ普通に考えたらそりゃそうなんですけど、あらためてそんなことを考えさせられたのは友人による乾杯のスピーチのせい。いつもなら適当に聞き流す数分間ですが、興味深いフレーズに思わずバヴァロアをすくうスプーンが止まってしまいました。

聞こえてきたのは「陰陽五行論」といういかにも、な言葉。

陰陽とは文字通り、表と裏、天と地、男と女など、あらゆるものは陰と陽に分類できる、というもの。そして五行というのは自然界に存在するすべてのものが「木、火、土、金、水」の5元素から成り立っていて、木があるから火が起き、燃えたものはやがて土になり金が生じ…というように、物事が循環していく様子を捉えたもの。

つまり「陰陽五行論」とは、相互に対立・依存しながらも、絶えず変化している協力関係のことを指すらしいです。

そんな話をなぜ乾杯のスピーチに…? 友人はこう続けました。ひとは共通点が多いと結ばれると思いがちだけど、本当は相違点が多い方が相性が良いのだ、と。目の前にひとが現れたとき、無意識のうちに自分との共通点を探そうとしてしまうけど、本当に知るべきことはどれだけ異なる感覚を持っているか、ということらしいのです。

こんな実験の話を思い出しました。

男女およそ50名ずつを対象にした、通称「Tシャツ実験」。スイスの研究チームによる実験で、まず男性側に2日間同じTシャツを着続けてもらい、その後そのTシャツを女性側にまわし、匂いのみで好き嫌いを10段階で評価してもらうというものです。

すると結果は、女性陣は遺伝子的に遠いひとの匂いを“好き”と判断し、逆に遺伝子的に近いひとの匂いを“嫌い”と判断したのだそう。思春期の女子が父親の匂いに嫌悪感を抱くのは、反抗期とか加齢臭というわけではなく、遺伝子的、本能的なものらしいですよ。全国のお父さん、良かったですね。

うちの子たち(サイベリアンとベンガル)も、遺伝子的にはもちろん、見た目も性格も全然違うけど仲良し。

少し話は逸れてしまいましたが、何が言いたかったのかというと、ひとは(猫も?)本能的に”自分と相違点の多いひと”に惹かれるのだということ。

恋愛がそうであるように、仕事もそうだと思うのです。共通点を頼りに近づきがちだけど、本当に見るべきは自分とは異なるところ。仕事を進める上で“クライアントに寄り添う”ってよく聞くけれど、果たして本当の意味で寄り添えているのか…、立ち止まって考える時間も必要なのかもしれません。

恋の成就も、仕事の成功も、大切なことは違いを理解し、認め合い、それを好転させること。

随分前に、編集者の先輩に「企画書はラブレターだよ」と言われたことがあります。そのときは何言ってんだこのひと…くらいにしか思ってなかったけど、あながち間違ってはいないのかもですね。あのときは冷めた目で適当に相槌打っちゃってすみませんでした。

常重直也/
フイナム編集部
留学経験なし。愛猫2匹との独身ライフを謳歌する、ライノ入社8年目の34歳。山口県で生を授かり、ピアノと野球に没頭する思春期を経て、滋賀県の大学へ進学。バス釣りにハマり、古着屋に通い詰め、髪の毛を腰まで伸ばし…、そうして付いたあだ名は琵琶湖の突然変異。ちなみにMBAも未取得。
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