削ぎ落としの美学
ここ数年でファッションブランドのロゴを中心に、フォントへの向き合い方が大きく変わりました。昔はやたらと凝ったデザインが主流でしたが、今はとにかくシンプル。フラットな文字に置き換えるブランドが一気に増えました。
ハイブランドも例外ではなく、あの伝統あるロゴさえ「これでいいの?」と思うくらいスッキリ。
理由のひとつはデジタル対応です。スマホの小さな画面で見ても読めることが第一条件になってきました。結果、派手さよりも「読みやすさ」と「普遍性」が優先される時代になったというわけです。

しかもこれはファッションに限った話ではなく、企業ロゴもどんどん簡素化しています。昔ながらの立体感のあるロゴやシンボルは影を潜め、文字そのものを前に出すスタイルが定番化。SNSやアプリのアイコンでも見やすいことが重視されていて、フォント選びそのものがブランドの雰囲気を決める大事な作業になっています。
一方で、日本には日本ならではの悩みが。それはとにかく「文字情報が多い」ことです。
パッケージの注意書きや広告のキャッチコピー、どれをとっても情報過多。しかも漢字・ひらがな・カタカナが入り乱れていて、視覚的にもかなり複雑。欧米の都市にあるミニマルなタイポグラフィをそのまま持ってくると、どうしても浮いてしまう。
日本の街や文化に寄り添ったフォントデザインを考えるのは、実はめちゃくちゃ難しい作業です。シンプルで普遍的なデザインが世界の主流になっている一方で、国や文化に合わせたちょうどいい落とし込みが重要です。
ここだけの話、最近よく見かける「手書き風」や「ラフな質感」の文字のなかには、実はAIで生成されたものも混ざっています。
既存フォントにはない微妙な揺らぎや自然な崩しを再現できるのはAIならではの強み。もしかすると近い未来、ファッションロゴやTシャツの英文にもAI由来のフォントが当たり前に紛れ込み、気づかないうちに新しいスタンダードを作っていくのかもしれません。

クリエイティブチーム デザイナー