走ることの行く末。

山本 博史
2025.10.08

〈シティー カントリー シティー〉による「Running Always」Tシャツ。速乾ボディに秀逸なグラフィックは、既存のランニングアパレルとは異なるテンションが魅力的。

ぼくらの世代にとってランニングといえば「スポ根」の象徴でした。サッカーほどの華やかさもないし、バスケットボールのようなチャラさもない。ただひたすら黙々と走る――その寡黙さこそが、ランニングの代名詞だったんです。要するに、めっちゃ地味…(陸上部だった方、すみません!)。

そのイメージがどういうワケか、ここ最近急速に変化を遂げようとしています。いい意味で。

その背景の1つが、モードやラグジュアリー、ストリートの要素を巧みにブレンドした新世代のランニングブランドの台頭です。フランス・パリ発の〈サティスファイ〉、ロサンゼルスで高性能アイウェアから出発した〈ディストリクトヴィジョン〉、さらにはイギリス出身デザイナーのヌー・アバズ率いる〈ヌースタジオ〉など、いずれも従来のスポーツブランドとは一線を画す優れたデザイン性を備え、感度の高いランナーたちから熱い支持を集めています。

その動きに呼応するように、世界各地でスタイリッシュなランニングショップが続々とオープン。パリの「ディスタンス」、オークランドの「レネゲイド」、東京では「タイクーンランニング」など、いわゆるスポーツ用品店とは異なる、セレクトショップさながらの個性豊かなブランドをピックアップ。商品を販売するのみならず、定期的にグループランも実施し、ランニングをカルチャーとして楽しむ人々の拠点として機能しています。

なかでも東京は、スタイルとして独自の進化を遂げています。裏原宿から連綿と続くカルチャー的な素養を土台としながら、ウルトラライトやトレイルランニングといったアウトドアエッセンスが混ざり合い、普遍性を兼ね備えたカジュアル志向の強い、唯一無二のランニングスタイルを確立しています。

単なるパフォーマンス追求の場を超え、カルチャーを横断する新しい表現のフィールドへと進化し始めたランニングマーケット。マーケティング過多なファッションをとうの昔に脱ぎ捨てたぼくにとっては、喜ばしい傾向である一方、走るという原始的な行為がトレンドとして消化される怖さも感じています。そのうえでぼくらはどのようなスタイルを選択し、なにを発信するべきなのか。その答えは、今後のフイナムで表現していきたいと思います。

「信越五岳トレイルランニングレース」2025年の参加Tシャツはずんだ餅カラーで登場。〈パタゴニア〉製で日常的にも着用できるスタイリッシュなデザインが印象的。

山本 博史/
フイナム副編集長 / フイナム ランニング クラブ♡ 副部長
ゆるふわランニングコミュニティ「フイナム ランニング クラブ」による、サウナ併設でビールも飲めるランニングステーション「ととけん」を2023年にオープン。先週出場した「信越五岳トレイルランニングレース」は、110kmの部を21時間47分41秒で無事ゴール。ほっと一息つきながら、この原稿を執筆。右足内側のくるぶしが痛い。
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