バイバイ、アメリカ

蔡 俊行
2025.07.02

先日の日経新聞に興味深い記事を見つけた。

コカコーラのグッズを集めている人の話だ。この方は下山好誼さん。アパレル会社「ジョイマーク・デザイン」の創業者だ。ブランド名「ボートハウス」、「キャプテンサンタ」と言った方が通りがいいかもしれない。

47年生まれの氏にとってアメリカは憧れの的。サーフィンや60年代にアメリカのアイビーリーグで流行っていた服装をアレンジしたファッションに影響を受けたという。それで会社を立ち上げた。

80年代、「ボートハウス」のトレーナー(スエット)は、若者たちの一大ブームになり、青山の店舗には行列ができた。現代に続く、並んで服を買うことの先駆けである。

アメリカに憧憬を抱いていた先達は多い。ビームスの設楽さんもインタビューなどでよく語っているし、70年代、80年代にファッションブランドやお店を立ち上げた人で影響を受けなかったという人はいない。

中曽根信一さんもそのひとり。

ぼくの少し上の先輩になる。いまinstagramと雑誌「Begin」で「勝手に思っていること」というタイトルで連載をしている。アメカジショップの「バックドロップ」からキャリアをスタートさせ、のちに「ラブラドール・リトリーバー」を立ち上げ渋カジの流れを作った。どっぷりアメリカにハマり、古着、当時は日本で手に入らなかったラルフローレンのアイテム、あるいはデッドストックのスニーカーに目をつけ、アメリカ中を縦横無尽に駆け回った冒険譚である。

ファッションではパリやミラノも先進都市。しかしアメリカは別格なのである。

ぼく自身もアメリカに感化されてしまった世代のひとり。先輩たちは映画やTVドラマから影響受けたというが、我々世代にとっては雑誌「POPEYE」の影響が強い。編集者やライターがアメリカに飛び、現地で見て聞いたネタをそのまま記事にするという勢いに飲み込まれた。

戦後、敵国であったアメリカをこんなに好きにさせるなんて優れた工作員でも難しい。ここだけの話、マガジンハウスの木滑さん(故人)はCIAだったなんて噂もあった。

ともかくアメリカ文化は日本のファッション、カルチャー界の隅々まで浸透している。

ライフスタイルに関するビジネスで日本は他のアジアの国の先頭を走ってきたが、それに追いつけ追い越しているのが韓国である。

韓国では1987年の民主化宣言まで、外国の文化に寄り添うのは御法度とされており、日本の歌やドラマなどが解禁されたのは2000年代に入ってから。なので戦後80年にわたる日本のようなナラティブがない。現にバリ島で聞いた話だが、サーフィンしている年配の人は日本人だとすぐわかるらしい。韓国はサーフィンブームが根付いて日が浅い。

アメリカにアメカジなどの文化を逆輸入するくらいの勢いで発展してきたが、この先どうなるのだろう。

トランプの暴挙や支離滅裂に辟易している若い人がアメリカフォロワーになるだろうか。

時代は変わった。古き良きアメリカに憧憬を抱く若い人は、もう世界に何人もいないのかもしれない。

蔡 俊行/
株式会社ライノ 代表取締役
編集者。プランナー、コピーライターとして数多の企業のブランディング、広告制作なども手掛ける。また自社媒体フイナムの統括編集長。面白いことをいつも考えていて、飲食店を開業してみたりサウナ事業に手を出してみたりとでたらめなことをやってます。
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